竹内好の残したもの 1

竹内好集 (戦後文学エッセイ選)

竹内好集 (戦後文学エッセイ選)

昨日、京大会館で開催された公開シンポジウム『竹内好の残したもの』を聴くために、八時半から地域でドブ掃除を済ませて急いで特急に乗って会場に行きましたが、十時半の開会にギリギリ間に合いました。
トップバッターは中島岳志で、七枚のレジュメが用意されていました。
タイトルは『アジア主義ナショナリズム竹内好における60年安保闘争と主体形成』
レジュメをそのまま紹介すればいいのですが、七枚もあるので、僕なりにレジュメをテキストにして簡単に紹介します。
まずはじめに、竹内好という人間について、竹内はー優等生であることへの懐疑、自己保全・自己保身欲の超克、「決意」の重視ーをして、自己の内的苦悩との格闘を通じて他者の苦悩とつながる。そこに文学への志向性を中島は見る。
そして、その実存的人間の佇まいは「明治の気質」を選び取る(その再帰性と主体性)作業につながる。
参照文献:小熊英二『民主と愛国』(新曜社396頁)
この講演の主調音の一つは・優等生=ドレイとしての近代日本であり、偶々丸激で一昨日、僕は、田母神俊雄前航空幕僚長講演自虐史観は国益を損ねる/日本外国特派員協会プレスクラブ (2008年12月01日)を聴いたのですが、1868年(明治維新)から、ドレイとしての近代日本が通底奏にあったのではないか。どこかに田母神の言っていることが一笑に付すことが出来ないひっかかりがあるところかも知れない。

「日本文化は構造的に優等生文化である」、「優越感と劣等感の並存という主体性を欠いたドレイ感情」、「主体性の欠如は、自己が自己自身でないことからきている。自己が自己自身でないのは、自己自身であることを放棄したからだ。つまり抵抗を放棄したからだ。出発点で放棄している。放棄したことは日本文化の優秀さのあらわれである。(だから日本文化のの優秀さは、ドレイとしての優秀さ、ダラクの方向における優秀さだ。)抵抗を放棄した優秀さ、進歩性のゆえに、抵抗を放棄しなかった他の東洋諸国が、後進的に見える。」(「近代とは何か」全集(4)・159頁)

東浩紀の言う「動物化」の優秀さと言ってもいいかも知れない。それとも、沼正三の『家畜人ヤプー』の優秀さ?、倒錯だなぁ…。
鶴見さんが、昼食後の後半で、竹内さんについて面白いことを言っていました。
吉田茂はスゴイ人だったけれど、孫である現総理を僕なんかどうもと思ってしまうけれど、竹内は、くだらないものと思っていることを、面白いところがあると評価することがある。ひょっとしたら、そこに希望をみるかもしれない。でも、竹内の予想は外れるんだよねぇ。なるほど「わからない先生」かもしれない、そこが面白いとも言える。
内田樹の『先生はえらい』(ちくまプリマー新書)の先生を彷彿させるところがある。
作家の山田稔が竹内は包容力があって、暖かくて、その人柄は武田泰淳に似ていますよと言っていましたが、松本昌次の『わたしの戦後出版史』竹内好武田泰淳のエピソードが沢山あったことを思い出し再読したくなりました。
そうそう、会場は立見席も出るような盛況で会館内で食事が出来ないと思い、近くのラーメン屋、定食屋といったところでカツ丼を食ったのですが、器はラーメンの皿でした。だけど、まあ、美味しかった。同じカツ丼を食っていたご年輩の人が「僕は竹内さんにスキーを教わってねぇ」とか、吉祥寺の昔話をしていたのですが、あの人は誰だったのか?
年恰好も、佇まいも山田さんに似ていたが、隣の席の人と話をしていたので、ちゃんと相対できなかったけれど、この大衆食堂はお世辞にもきれいではなかったけれど、オヤジは急にどどっとお客が来てビックリしていました。でも、準備した御飯の量が足らなくて僕のカツ丼が最後でした。ひとりでてんてこ舞いだから、なんとなくセルフサービスで、店内がアットホームな感じになって、同席になった人たちが竹内好についての話に花を咲かせていました。東京から深夜バスで来た人もいましたねぇ。開場が朝十時だから、朝早く起きて新幹線で来るより楽かもしれない。四時半からの懇親会に出ると言っていましたが、僕は講演が終わった四時に帰途につきました。懇親会も盛り上がったのではないか。
しかし、竹内好がこんなに人気があるとは、中島さん、大澤さんは、京大会館は馴染みなのですが、この会場がこんなに一杯になったのを見るのははじめてだと、驚いていました。
続きは又…

◆レジュメ・目次
1.はじめに
 竹内好という人間
2.「解説:アジア主義の展望」『現代日本思想体系8ーアジア主義筑摩書房、1963年
 (1)革命的アジア主義
 (2)反革命アジア主義
3.ナショナリズム自由民権運動アジア主義
4.アジア主義の「脱亜」化
5.「超・国家主義」と「超国家・主義」のあいだ
6.絶対平和主義ナショナリズムとAAの論理(=転生した革命的アジア主義
7.保守政治家たちとアジア(=反革命アジア主義の復活)
8.竹内好と60年安保闘争

http://d.hatena.ne.jp/kuriyamakouji/20081104/p1
http://d.hatena.ne.jp/kuriyamakouji/20080919/p1
フランス文学を専攻しながら、ある種、山田稔さんと対極にある西欧型民主主義者で徹底した近代主義者である加藤周一さんが、亡くなりましたねぇ。その徹底したエリート振り、その徹底さにおいて、竹内も評価していたらしい。合掌。http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081206dde041040072000c.html