政治と文学

竹内好「日本のアジア主義」精読 (岩波現代文庫)

竹内好「日本のアジア主義」精読 (岩波現代文庫)

竹内好の残したもの」公開シンポジウムの共通テーマは「政治と文学」に関する眼差しでしょう。
特に大澤真幸は「文学」に力点を置いた語りをしたわけで、基調講演の中島はあくまで政治から竹内にアクセスをこころみたので、レジュメもそんな構成になっている。
縦軸に「文学」、横軸に「政治」とにグラフを作れば、45度の斜線上には深いクレパスがあり、平面ではなく立体型の氷山ボックスをイメージすれば、下の方では「文学」も「政治」も通底しているわけですが、中島の立ち位置はあくまで見える氷山の平面での政治へのアクセスであり、だからこそ、明晰すぎるほど明晰に語ろうとする。
グラフの面取りをして扇面を描けば、左上の文学の極北は小説こそが世界を描ききれると信じる作家の保坂和志を位置付けることが出来るし、右下の政治の極東には、誰がいるだろう、沢山いすぎるから、それぞれが思い浮かべるがいいと思う。
そう言う状況だからこそ、中島の「文学は死んだ」は、神経を逆撫でされて、イライラしたって、不思議ではない。
柄谷行人と最近対談したらしいが、クリシェの「文学は死んだ」は安易に使うべきではないなぁと僕は思いました。
45度線の淵に近い境界線にそれでも対岸の文学側に位置するのは、「竹内好」で、政治側の此岸に位置するのは「鶴見俊輔」でしょう。
ただ、互いに声の届く此岸と対岸(彼岸?でもあるかも)の位置取り。
日本の近代化の道は(1)の革命的アジア主義が(2)の反革命アジア主義(優等生文化)に乗っ取られる道行きであって、そこに「連帯」と「侵略」というアジア主義における二面性が現れる。と書きましたが、何故、(1)が立ち上がっても結局(2)に回収され体制化して行くのか。それが何度も繰り返される。どうしてなのか、それが中島の問題意識なのです。
大澤がナショナリズムの問題で、あえてアイデンティティとして日本人であることにコミット(決意)した時、それでも、≒日本人で、=でぴったりと重ならない残余が(1)の革命的アジア主義みたいなことを後で言ったが、そこで立ち上がる(1)は主体であり、「文学」なんだと思う。(1)はカテゴライズ出来得ぬ「語り得ぬ」ものとしか言いようがない。言語化した途端、するりと零れ落ちるものを掬い取る作業の生成が実存主義歴史観であろう。
だからこそ、僕が感じる中島に対する懸念は軽々しく「文学は死んだ」と言って欲しくないということです。下のコメント欄で書いている塩津さんに関する当惑は逆に中島が文学に希望を見出してくれれば大歓迎で、むしろ塩津さん側の「政治側」右下に位置する。
僕と塩津さんのやりとりが噛み合わないのは当然です。僕は保坂和志より極北ではないけれど、竹内よりは左上で多分大澤真幸に近い位置取りです。
思うに、syakekanさんも「政治側」で、せっかくコメント欄でニアミスしているのだから、
塩津さんとやりとりした方が非常に生産的だと思いますw。
では、前日に続いて中島のレジュメから引用します。『現代日本思想体系8−アジア主義』に収載されている「解説:アジア主義の展望」の論文より最後の部分からです。

・「西郷を反革命と見るか、永久革命のシンボルと見るかは、容易に片づかぬ議論ある問題だろう。しかし、この問題と相関的ではなくてはアジア主義は定義しがたい。ということは、逆にアジア主義を媒介にしてこの問題に接近することもまた可能だということである。われわれの思想的位置を、私はこのように考える。
→「明治維新100年=1968年への関心
   ・革命の可能性と、それが反革命へと転化するプロセスへの関心

次回に続く。
そうそう、syakekanさん紹介のこちらのリンクを張っておきます。
知的情報メールマガジン「αシノドス」読みたい!*1 - 希望は、戦争?blog 〜「丸山眞男」をひっぱたきたい Returns〜
日露戦争後、政治に興味をなくして文学へではなく、政治も文学も興味をなくしたというのが、正解ではないか、まあ、僕の実証主義に基づかない直感だけど、むしろ、文学に興味を持ってくれたら希望が生まれる。文学>政治、他者>国家なのです。中島さんの言うように日露戦争後、若者達が確固たる「文学」にアクセスしていたら、上のように(1)から(2)への乗っ取りが起こらなかったはずだ。
単なる心情のレベルの「文学」へ日露戦争後の若者達が寄り添ったので、「思想」のレベルまで到達した「文学」ではなかったとも言える。この国の<私小説>が文学としてカウントされるのか?という問いでもある。
公開シンポの講演で、次回に紹介するレジュメにこのあたりの問題を論じている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E5%B2%B3%E5%BF%97