前立腺がんで死なないために

前立腺がんで死なないために―治療の多選択肢時代を迎えて

前立腺がんで死なないために―治療の多選択肢時代を迎えて

前回に引き続いて垣添忠生氏の『前立腺がんで死なないために』から概略を書いてみます。僕の原典は旧版ですが画像のように改訂版が出ています。
僕の場合は(ホルモン療法)・(抗がん剤)・(デカドロン)という3つの薬剤を処方しているのです。ドラマトゥルギーとしてあくまで主役はホルモン療法であって抗がん剤は悪役。デカドロンは三枚目でしょう。ホルモン薬剤が主役らしく活躍している間は問題がないのですが、段々と神通力がなくなってくるわけです。102頁前後を要約します。
《ヒト前立腺がんに関するがん遺伝子の異常としてはras遺伝子、Cーmyc遺伝子、bcl-2遺伝子の3つが関連していると考えられる。ras遺伝子にはH- ras・K-ras・N-rasの三種類が知られている。これらの遺伝子は細胞膜の裏側に付いて細胞膜から核の内側への情報を伝えることに関係しているG蛋白とよばれる物質を作るもととなって、これらrsa遺伝子のコドン12、13、61に点突然変異が起こると遺伝子は活性化され、これががん化の引き金となると考えられているわけです。問題はbcl-2です。この遺伝子はアポトーシス(細胞の死)に関係することが知られている。bcl-2遺伝子ががん遺伝子の中でユニークなのは、bcl-2が発現すると、がん細胞の増殖を促進するのではなくてアポトーシス現象を抑える働きがある点である。つまりがん細胞が死ななくなるわけです。これでは困るわけです。前立腺がんには(1)ホルモン感受性のあるがん(2)ホルモン不応性がんに大別出来ますが、不応性がんではがん細胞が死にくいわけです。がん抑制遺伝子の働きでアポトーシスの状況をつくりたいわけです。抗がん剤がそのトリガーになって少なくとも殺し屋の機能を果たす。ホルモン療法だけならホルモン不応性がんに対してなす術がなかったのに、悪役の抗がん剤は殺してくれるわけです。