小熊英二/「のりしろ」奏者

〈民主〉と〈愛国〉―戦後日本のナショナリズムと公共性
◆引用で編むクリエーティブな『<民主>と<愛国>』(新曜社)の小熊英二は学者でありながら、キャリアのあるミュージシャンでもある。去年、季刊雑誌秋号で『本とコンピュータ』の表紙に彼の写真が掲載され、てっきり、編集方針を変えて、アーティストの惹きでビジュアルな装丁を狙ったのであろうと、思いきや、何と、お堅い本の著者の似姿だったのです。あまりのイケメンぶりに「読書カード」に日本現代思想家イケメン・ベストスリーなんぞ書いたら、お礼に献本と図書券をもらい、感謝、感謝でした。ちなみに順不同でベストスリーは〓小熊英二森岡正博東浩紀と書きました。〓は宮台真司でもいいのですが、彼に対する好悪は激しいのでわざと外しました。でも、小熊英二は思想家というには語弊があるかもしれない。彼自身、編集者時代が長く、鶴見俊輔上野千鶴子との鼎談『戦争が遺したもの』(新曜社)が今年上半期で話題となったが、この本の成功の秘密は小熊英二の編集のスキルによる部分が大きいと思う。トリオ演奏を効果的に演じている。過日、真偽のほどは分らないが、慶応大学に通っている女学生からの情報で、小熊さんは携帯電話を持っていないらしい。いかにも、ネットラーという感じもしますが、意外や意外、アナログ人間なんです。恐らく根底にいい音を奏するためには、コンピュータには限界があるという当たり前に拘泥して物を書いているのです。音を出しているのです。